球団経営

【放映権ビジネス】視聴率低下でも球団が儲かるカラクリ。地上波から「サブスク・CS」への巨額マネー移動

放映権ビジネス

私は巨人ファンですが、昔は毎日テレビで巨人の野球中継がやっていたのに、今は全然見ない。プロ野球の人気は落ちたのでは? そう感じる今日この頃ですが、視聴率が下がっても、なぜ球団の収益は過去最高レベルに達しているのか、とても気になりますよね?

「野球中継が消えた」は大きな誤解

「最近、地上波で野球をやらなくなった。プロ野球はオワコン(終わったコンテンツ)なのかな?」 居酒屋でそんな会話を耳にすることがあります。確かに、昭和の時代のように「毎晩19時から巨人戦」という光景は消え失せました。

しかし、ビジネスの数字を見ると、事実は真逆です。 NPB(日本野球機構)の市場規模は拡大を続けており、各球団の収益も右肩上がりです。

なぜ「テレビ(地上波)から消えた」のに「儲かっている」のか? その答えは、ビジネスモデルが「広く浅い広告収入」から、「狭く深い課金収入(サブスクリプション)」へと劇的な転換を遂げたことにあります。

今回は、チケット収入と並ぶ球団経営の太い柱、「放映権ビジネス」の現在地を解説します。

1. かつての錬金術「地上波・巨人戦バブル」の崩壊

時計の針を少し戻しましょう。 かつて、プロ野球の放映権ビジネスは極めてシンプルでした。「巨人戦を地上波で流す」、これだけです。

昭和の懐かしいお茶の間

1試合1億円の時代

昭和から平成初期、巨人戦の視聴率は20%超えが当たり前でした。 この圧倒的な数字を背景に、テレビ局は球団(主に巨人主催試合)に対して、1試合あたり約1億円(推定)とも言われる莫大な放映権料を支払っていました。 年間130試合あれば、それだけで100億円規模。球団にとっては「試合をするだけで濡れ手で粟」の状態であり、親会社の広告宣伝費と合わせれば、経営努力など不要な時代でした。

視聴率低下と「放送打ち切り」

しかし、娯楽の多様化により視聴率は低迷。スポンサーは離れ、テレビ局は高額な放映権料をペイできなくなりました。 結果、地上波の全国放送は激減。これが「野球人気が落ちた」と錯覚される最大の原因です。


2. 新たな救世主「CS・BS・ネット配信」の台頭

地上波という太客を失った球団が次に手を組んだのが、「衛星放送(BS/CS)」と「ネット配信(OTT)」です。

スマートフォンの画面で野球中継を見て、課金ボタンを押している様子

BtoC課金モデルへの転換

地上波は「無料で見せる代わりにCMを見てもらう(広告モデル)」ですが、CS(スカパー!やJ SPORTS)やネット配信(DAZN、パ・リーグTVなど)は「ファンから直接視聴料を貰う(課金モデル)」です。

かつての地上波モデル

  • 主な収入源:テレビ局からの放映権料
  • 原資:スポンサー企業の広告宣伝費
  • 指標:視聴率(大衆受けが必要)
  • 構造:広く浅く(無料)
  • 弱点:不況で契約金が激減する

現在のCS・配信モデル

  • 主な収入源:配信業者からの契約金
  • 原資:ファンの月額視聴料
  • 指標:加入者数(コアファン重視)
  • 構造:狭く深く(課金)
  • 強み:年間契約による安定収入

ここには「視聴率」という概念はありません。あるのは「加入者数」です。 たとえ視聴者が全国民の1%しかいなくても、その1%が熱狂的で、毎月数千円を払ってくれれば、ビジネスとして成立します。

  • DAZN(ダゾーン): 黒船として参入し、巨額の契約金を提示。
  • スカパー!プロ野球セット: 月額4,000円以上でも、全試合見たいコアファンは契約を継続します。

これにより、球団は「視聴率に左右されない、安定した放映権収入」を得られるようになりました。これをビジネス用語で「リカーリング・レベニュー(継続収益)」と呼び、経営の安定化に大きく寄与しています。


3. パ・リーグの革命「PLM」による一括管理

この放映権ビジネスで、最も成功したのがパ・リーグです。

かつてパ・リーグは、巨人戦のようなドル箱がなく、放映権料は微々たるものでした。 そこで2007年、パ・リーグ6球団が出資して「パ・リーグマーケティング(PLM)」という会社を設立しました。

「バラ売り」から「セット売り」へ

それまで各球団がバラバラに交渉していた放映権を、PLMが「パ・リーグ6球団全試合」というパッケージにして一括管理・販売したのです。 買う側(テレビ局や配信業者)からすれば、「いちいち6球団と交渉しなくて済む」「パ・リーグ全試合が見られるサービスが作れる」というメリットがあります。

この戦略は大成功し、パ・リーグの放映権収益は設立当初から数倍に跳ね上がったと言われています。 一方のセ・リーグは、依然として各球団が個別に管理しており、特に「巨人」と「それ以外」の格差や権利関係の複雑さが、ネット配信の足かせ(巨人戦だけ別サービスなど)になっています。


4. 実際の金額は? 放映権料の今の相場

現在、球団はどれくらいの放映権料を得ているのでしょうか? 契約内容は機密事項のため正確な数字は非公開ですが、業界の推計では以下のように言われています。

  • 放映権総額(1球団あたり): 年間 30億円 〜 50億円 規模

これは、チケット収入(年間数十億円)に匹敵する、あるいはそれを上回る金額です。 しかも、チケット収入は「雨天中止」や「チームの順位低迷」で客足が落ちれば減りますが、放映権は「年間契約(または複数年契約)」が基本です。 チームが最下位でも、雨が降っても、契約した金額が入ってくる。この「強固な固定収入」があるからこそ、球団は数十億円の年俸を選手に払い、スタジアムを改修できるのです。


5. コンテンツとしての「ライブスポーツ」の価値

ネットフリックスやYouTubeの時代になっても、プロ野球の放映権が高騰し続ける理由。それは「生中継(ライブ)」の価値です。

ドラマや映画は「あとで見ればいい」コンテンツですが、スポーツの結果は「今」知らなければ意味がありません。 CMをスキップされず、リアルタイムで数時間を共有できるスポーツコンテンツは、メディアにとって「最後の砦」なのです。

2025年以降の課題

一方で、課題もあります。 「DAZN」「スカパー」「楽天TV」「Hulu」「イージースポーツ」…… 視聴環境が乱立し、ファンからは「結局、どこに入れば全部見られるの?」という悲鳴が上がっています。 アメリカのMLBのように、リーグ全体で統合されたプラットフォームを構築できるかどうかが、今後の市場拡大の鍵を握っています。


まとめ:我々の「月額料金」がホームランを生む

「地上波から消えた」ことは、決して衰退ではありません。 それは、広告スポンサーに頼る不安定なモデルから、ファンが支える強固なサブスクリプションモデルへと進化した証です。

契約して毎月支払っている「DAZN」や「スカパー!」の視聴料。 そのお金は、巡り巡って球団に入り、大物選手の獲得資金や、スタジアムの快適な座席へと変わっています。 現代のプロ野球は、テレビの向こう側にいるあなたの「課金」によって支えられているのですね!

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