【日本ハム】「脱・札幌ドーム」で収益はどう変わった?エスコンフィールドが目指す「365日稼げる」ボールパーク構想の全貌

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【日本ハム】「脱・札幌ドーム」で収益はどう変わった?エスコンフィールドが目指す「365日稼げる」ボールパーク構想の全貌

球界を揺るがした「独立宣言」

2023年、北海道日本ハムファイターズは、長年本拠地とした札幌ドームを去り、北広島市に建設した新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」へ移転しました。

総工費600億円。日本の球団が単独でこれほどの巨大投資を行うのは前代未聞です。 「人口の多い札幌市を出て、郊外に行くなんて自殺行為だ」 当初はそんな批判もありました。

しかし、開業から1年が経過し、見えてきたのは「劇的な収益構造の改善」と、野球の枠を超えた「街づくりビジネス」の成功でした。 なぜ日本ハムはリスクを冒してまで「持ち家」にこだわったのか? その裏には、旧球場時代の「奴隷契約」とも揶揄された、歪な収益構造からの脱却がありました。


1. 札幌ドーム時代の「構造的欠陥」とは?

移転の最大の理由は、端的に言えば「どれだけ稼いでも、球団にお金が残らない仕組み」だったからです。

札幌ドームは「札幌市(第三セクター)」が所有し、日本ハムはあくまで「店子(テナント)」でした。ここにはビジネス的な足かせが3つありました。

  1. 高額な使用料: 年間約13億円(基本使用料+追加費用)とも言われる莫大な家賃が発生していました。
  2. 看板・飲食収入の逸失: これが決定的でした。球場内の「看板広告費」や、売店での「グッズ・飲食売上」の多くが、球団ではなくドーム側(市)の収入になっていたのです。
  3. 「野球以外」ができない: コンサートやイベントの日程調整権限もドーム側にあり、球団が自由にイベントを仕掛けることが困難でした。

「客を集めているのは球団なのに、一番儲けているのは大家さん」。 この構造を変えない限り、球団の黒字化や選手への年俸還元には限界がありました。


2. エスコンフィールドが変えた「お金の流れ」

新球場エスコンフィールドにおいて、日本ハム(正確には運営会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント)は「所有者」かつ「運営者」です。

これにより、お金の流れが劇的に変わりました。

  • チケット収入: 全額球団へ。
  • 看板広告収入: 全額球団へ。(※記事NO.6参照)
  • 飲食・グッズ収入: 全額球団へ。
  • 駐車場代: 全額球団へ。

特に大きいのが「飲食(F&B)」「広告」です。 これまでは「高い家賃を払って、さらに売上の上澄みも取られる」状態でしたが、今は「自前のキッチンで売り、自前の壁に広告を出し、全てを利益にする」ことが可能です。

実際、移転初年度の決算では、球団事業の売上高は過去最高レベルに急増しました。減価償却費(建設費の分割計上)という会計上のマイナスはあるものの、キャッシュフロー(現金の入り)は圧倒的に潤沢になったのです。

収益構造

【収益構造の劇的ビフォーアフター】

■ 🏢 札幌ドーム時代(テナント)
・入場料 ➝ 球団の収入
・グッズ/飲食 ➝ 一部手数料を取られる
・看板広告 ➝ 市の収入
・駐車場 ➝ 市の収入
・使用料 ➝ 年間13億円以上の支払い(赤字要因)

 ⬇ ⬇ ⬇

■ 🏟 エスコンフィールド時代(オーナー)
・入場料 ➝ 球団の収入
・グッズ/飲食 ➝ ほぼ全額が球団の利益!
・看板広告 ➝ 全額が球団の利益!(記事NO.6参照)
・駐車場 ➝ 全額が球団の利益!
・使用料 ➝ 0円(※建設費の返済はある)


3. 「野球がない日」に稼ぐFビレッジ構想

エスコンフィールドの最大の特徴は、スタジアム単体ではなく、周辺エリアを含めた「HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE(Fビレッジ)」という一つの「街」として開発された点です。

従来の球場ビジネスの弱点は、「年間約70試合(主催試合)しか稼働しない」ことでした。残りの約300日は、巨大な空き箱だったのです。

しかしFビレッジは違います。

  • タワー11(ホテル&サウナ): 世界初、球場内にある天然温泉とサウナ。試合がない日も宿泊客や観光客が訪れます。
  • 子供の遊び場・ドッグラン: 地元のファミリー層が、公園感覚で日常的に利用します。
  • 飲食店・ブリュワリー(ビール醸造所): 試合を見なくても、「食事をしに来る」場所として機能しています。

目指したのは「野球観戦がついでになる場所」。 野球ファン以外も取り込み、365日お金が落ちる仕組みを作ったことこそ、このプロジェクトの真の革新性です。


4. スタジアムビジネスの「最終形態」へ

日本ハムの挑戦は、他のプロ野球球団にも多大な影響を与えています。

「指定管理者制度」で球場を借りて運営するロッテや楽天、横浜DeNAなども工夫を凝らしていますが、「土地建物ごと自前で持ち、街を作る」という日本ハムのモデルは、MLB(メジャーリーグ)型経営の完全なる日本版です。

投資対効果(ROI)の行方

総工費600億円の回収には長い時間がかかります。 しかし、自社保有の不動産は、周辺の地価が上がれば「含み益」を生みます。 北広島市の地価は上昇を続けており、球団(親会社)は「優良な不動産資産」を手に入れたことになります。

単なる「興行主」から、「デベロッパー(都市開発業者)」へ。 エスコンフィールドは、プロ野球ビジネスが「スポーツ」から「社会インフラ産業」へと進化したことを証明する、巨大なモニュメントなのです。


まとめ:移転は「我慢」ではなく「投資」だった

札幌ドームからの撤退は、当初「喧嘩別れ」のように報じられましたが、ビジネス視点で見れば極めて冷静な「損益分岐点の見直し」「未来への投資」でした。

  • 旧モデル: 立地は良いが、収益の上限が決まっている(天井がある)。
  • 新モデル: 立地はリスクだが、収益のすべてを自分たちでコントロールできる(天井がない)。

日本ハムが選んだのは、後者の「自由」でした。 今後、このボールパークがどれだけの利益を生み出し、それがどうチーム強化(選手の年俸)に還元されていくのか。 エスコンフィールドの成功は、日本のスポーツビジネスの未来を占う試金石となるでしょう。

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