選手の年俸

【用具ビジネス】プロの道具は誰が払う?バット1本2万円の「自腹」と、年数千万円貰える「アドバイザリー契約」の格差

用具ビジネス

折れたバットの代金は誰が払う?

試合中、豪快なフルスイングとともに「バキッ」と音を立てて折れるバット。 プロ野球の試合では日常茶飯事の光景ですが、あのバット1本にいくらかかるかご存知でしょうか?

材質にもよりますが、プロ仕様の特注バットは1本あたり約15,000円〜20,000円もします。 年間で50本折れば、それだけで100万円近い損失です。

「球団が払ってくれるんでしょ?」 そう思うかもしれませんが、基本的には「道具代は選手の自己負担(個人事業主の経費)」です。

しかし、テレビに映るような一流選手たちが、スポーツ店で財布を出してバットを買っている姿など見たことがありませんよね? 実は、プロ野球界には「道具をタダで貰える選手」と「自腹で買う選手」、さらに「道具を使うだけでお金が貰える選手」という、明確な3つのカースト(階級)が存在するのです。

今回は、メーカーと選手の間に結ばれる「アドバイザリー契約」というBtoBビジネスの裏側を解説します。

1. 用具供給の「3つの階級」

メーカーにとって、プロ野球選手は「広告塔」であると同時に「顧客」でもあります。 実力と知名度によって、待遇は天と地ほど違います。

① 第3階級:自費購入(二軍選手・若手)

まだ実績のない若手や二軍選手は、一般人と同じく「自腹」で購入します。 ただし、プロ割引(卸値に近い価格)で買えるケースが多く、多少の優遇はあります。 年俸が低い彼らにとって、年間数十万円〜100万円にのぼる道具代は、非常に重い固定費(経費)となります。

② 第2階級:物品提供(一軍レギュラークラス)

一軍に定着し、テレビ露出が増えてくると、メーカーから声がかかります。 「うちのメーカーを使ってください。その代わり、道具は無償で提供します」 これが「物品提供(モニター)」の段階です。 金銭のやり取りはありませんが、バットやグラブ、スパイクなどが支給されるため、選手にとっては「経費削減」という大きなメリットがあります。

③ 第1階級:アドバイザリー契約(スター選手)

球界を代表するトップ選手になると、立場が逆転します。 「お金を払いますから、どうかうちのロゴが入った道具を使ってください」 これが「アドバイザリー契約(ブランドアンバサダー)」です。 道具が無料になるどころか、「契約金(ギャラ)」が発生します。

3つの階級

step
1
👑 階級1:アドバイザリースタッフ(TOP層)
対象:タイトルホルダー級のスター
待遇:道具無料 + 契約金(数百万〜数千万円)
義務:開発協力、広告出演

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2
🛡 階級2:物品提供 / モニター(中間層)
対象:一軍レギュラー定着クラス
待遇:道具無料
義務:継続使用

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3
💰 階級3:一般購入(下層)
対象:二軍選手、新人
待遇:自腹(プロ割引あり)
実態:折れたバット代が生活を圧迫することも…

2. アドバイザリー契約の相場と「義務」

では、道具を使うだけでいくら貰えるのでしょうか?

  • 国内トップクラス: 年間 数百万円 〜 2,000万円
  • メジャー級(大谷翔平など): 年間 数億円 〜 数十億円(※グローバル契約含む)

これは選手にとって、年俸以外の貴重な「副収入」です。 しかし、ただ貰うだけではありません。彼らにはメーカーに対する厳しい「ビジネス上の義務」が課せられます。

  1. 独占使用義務: 契約期間中は、他メーカーの道具を試合で使うことは許されません(※バットだけ、グラブだけといった部分契約もあります)。
  2. 開発へのフィードバック(R&D): 「もう少し重心を先端に」「革を0.5ミリ薄く」といったプロの感覚を開発陣に伝え、商品開発に協力しなければなりません。これが市販品の品質向上に繋がります。
  3. 肖像権の利用: カタログやポスター、CMへの出演義務です。「◯◯選手愛用モデル」として売り出すために、彼らの顔写真は欠かせません。

3. なぜメーカーは大金を払うのか?(ROIの計算)

ミズノ、ZETT、SSK、アシックスなどのメーカーは、なぜこれほど高額な契約金を払ってまで選手に道具を使わせるのでしょうか? その答えは、「アマチュア野球市場」にあります。

日本の野球用品市場を支えているのは、プロではなく「部活生(中学・高校・大学)」と「草野球愛好家」です。 彼らがグローブを選ぶ最大の動機は、「憧れのあのプロ選手が使っているから」です。

  • 「源田選手(西武)が使っているZETTのグラブなら、守備が上手くなりそうだ」
  • 「村上選手(ヤクルト)と同じミズノのバットなら、ホームランが打てそうだ」

この心理的効果(インフルエンサーマーケティング)は絶大です。 契約金として年間1,000万円を払っても、その選手モデルのグローブ(1個5万円)が全国で200個以上余分に売れれば、元が取れる計算になります。 さらに、ブランド全体のイメージアップ効果を含めれば、「広告宣伝費」としてはテレビCMを打つよりも遥かにコスパが良いのです。

4. 契約変更は「移籍」並みのビッグニュース

ビジネス規模が大きいため、選手が使うメーカーを変えることは、ちょっとした事件になります。

最も有名な事例は、大谷翔平選手でしょう。 日本時代から長年「アシックス」を使用していましたが、2023年に突如アメリカの「ニューバランス」と契約しました。

これは単なる道具の変更ではありません。 野球用品市場にとどまっていた大谷選手の価値を、「グローバルなライフスタイルアイコン」へと引き上げるための巨大なビジネス戦略でした。 ニューバランス側も、野球界への本格参入のために、世界最高の広告塔を数百億円規模(推定)で獲得したと言われています。

道具契約の変更の裏には、常にメーカー同士の熾烈なシェア争いと、巨額のマネーゲームが潜んでいるのです。

まとめ:道具を見れば「選手の市場価値」が分かる

テレビ中継を見る際、選手のバットやグラブのロゴマークに注目してみてください。

  • いろいろなメーカーが混在している選手 ➝ まだ契約がなく、自分で使いやすいものを買っている(こだわり派、または若手)。
  • 全身同じメーカーで統一されている選手 ➝ メーカーの「顔」として契約しているスター選手。

道具は単なる用具ではありません。 それは選手と企業が結んだ「ビジネスパートナーシップの証」であり、その選手がどれだけ市場価値(売れる力)を持っているかを測るバロメーターなのです。

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