プロ野球のオフシーズンの主役といえば「契約更改」。 ニュースで「年俸1億円でサインしました!」という景気の良い話を聞くと、私たちは「うらやましい、一生遊んで暮らせる」と思ってしまいがちです。
しかし、プロ野球選手は会社員ではありません。個人事業主です。 そこには、一般社会とは桁違いの「税金」と、プロとして生き残るための「莫大な経費」が存在します。
今回は、憧れの「1億円プレーヤー」が、実際に銀行口座に振り込まれる金額(手取り)はいくらなのか? 日本の税制と野球界の商慣習に基づいて、ガチでシミュレーションしてみました。
そもそもプロ野球選手は「個人事業主」
まず大前提として、選手は球団と雇用契約を結んでいるわけではなく、個人事業主として業務委託契約を結んでいます。つまり、確定申告をして自分で税金を納める必要があります。
ここで最大の壁となるのが、日本の「超過累進税率」です。
稼げば稼ぐほど持っていかれる「最高税率55%」の罠
日本の所得税は、稼ぎが増えるほど税率が上がる仕組みです。 国税庁のデータによると、課税される所得が4,000万円を超えた部分にかかる税率は以下の通りです。
- 所得税:45%
- 住民税:10%(一律)
- 合計税率:55%
なんと、4,000万円を超えて稼いだ分については、半分以上が税金として消えていく計算になります。これが「1億円もらっても半分しか残らない」と言われる最大の理由です。
見落とされがちな「3つの巨大経費」
税金の計算をする前に、売上(年俸)から引くことができる「経費」を見てみましょう。 「体一つで稼ぐ」と言われますが、実は意外とお金がかかります。
① 代理人(エージェント)手数料
近年、多くの選手が年俸交渉を代理人に依頼しています。 日本プロ野球選手会公認代理人の一般的な報酬相場は、年俸の3%〜5%と言われています。
- 年俸1億円の場合:300万〜500万円
もしCM契約などがある場合は、そこからさらに10〜20%の手数料が発生します。
② 商売道具(バット・グローブ代)
スター選手になればメーカーから用具提供(スポンサー契約)を受けられますが、そこまでの実績がない選手や、こだわりが強い選手は自費購入です。
- 木製バット: 1本 2万〜4万円。折れる消耗品のため、年間50〜100本消費すると約200万円。
- グローブ: プロ仕様は6万〜10万円以上。練習用・試合用・雨用などで複数個必要。
③ 体のメンテナンス・トレーニング費
これが最も大きな出費かもしれません。
- 専属トレーナーとの契約料
- オフシーズンの自主トレ費用(沖縄や海外への渡航費・滞在費含む)
- サプリメントや体のケア代
これらを合わせると、真面目に練習する選手ほど、年間で1,000万円近くを経費として使っているケースも珍しくありません。
【検証】年俸1億円選手の手取りシミュレーション
では、いよいよ計算してみましょう。 今回は、メーカー契約のない中堅選手が、努力の末に1億円をつかみ取ったと仮定します。
【モデルケース】
- 年俸: 1億円
- 独身(扶養控除なし)
- 経費合計: 1,500万円(代理人500万 + 用具・トレ費1,000万と仮定)
計算プロセス
- 課税所得の算出 1億円(年俸) - 1,500万円(経費) = 8,500万円 ※ここからさらに基礎控除などが引かれますが、金額が大きいので割愛します。
- 所得税の計算(速算表を使用) 8,500万円 × 45%(税率) - 479.6万円(控除額) = 約3,345万円
- 住民税の計算 8,500万円 × 10% = 850万円
- 税金合計 3,345万円 + 850万円 = 4,195万円
最終的な手取り額は…?
- 年俸:100,000,000円
- 経費:▲15,000,000円
- 税金:▲41,950,000円
- 手元に残るお金:43,050,000円
なんと、額面の43%程度しか自由になるお金は残りません。 「1億円プレイヤー」の実態は、「年収4,300万円の富裕層」というのが正しい認識と言えそうです。
まとめ:プロ野球選手は「経営力」も試される
年収4,300万円でも夢のような金額ですが、忘れてはいけないのが「稼働期間の短さ」です。 プロ野球選手の平均引退年齢は20代後半と言われています。この高収入が定年(60歳・65歳)まで続くわけではありません。
短期間で稼いだお金を、税金と経費をコントロールしながらどう残すか。 プロ野球選手には、グラウンド上の技術だけでなく、「株式会社 自分」を黒字にし続ける経営手腕も求められているのです。